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年間八○○隻が原油輸送
一九九一年の湾岸戦争時も、日本の商船隊は中東から原油を輸送し続けた。もしもこの航路のどこかで地域紛争が勃発し、VLCCの輸送が不可能になったとき、日本の原油輸入の大半はその他の地域に依存せざるを得なくなる。中国/インドネシア/ベネズエラ/アフリカ等が代替原油として候補にのぼるも、とても中東の代役は出来ない。日本の石油備蓄は現在、民間/国家ともに八○日弱で、つまり一六○日程度は備蓄を食いつぶしながら生き長らえることが出来る。しかし、もしもこの中東航路が継続して何日か途絶したら、たとえ備蓄があろうとも日本経済は大きな混乱に陥る。
この航路上で地域紛争が生じミサイルが飛び交い航行が危機に晒されたとする。航路上であれば中火で原油を積んでて長距離迂回すれば或いは日本の輸入は問題ないかも知れない。しかしそれが積み出し地域の中東であればどうなるのだろうか。しかも日本はどうしても中東原油を必要とする。もしもこの時原油を輸送するVLCCが日本船社の支配船腹であっても、それが外国からの単純用船だったり、仕組み船であって日本人船員以外の乗組員が配乗していたらどうなるのだろうか。例え長期契約に基づく用船や配乗であっても、不可抗力を盾に船主は契約を打ち切るか、あるいは契約を停止させる権利を持つ。「いや、ボーナスさえ弾めば外国人船員でも十分に雇用出来、日本への輸送を貫徹してくれる」というのも事実であろう。日本国籍船、日本人船員だったらどうなるのだろう。

 

経営判断と安全論議にズレ
九五年の日木商船隊(日本国籍船、仕組み船、単純用船)の隻数はおよそ一〇〇〇隻、船が大型化したこともあって隻数はこの一〇年減少しているが、ほとんど変化無いとみてもよい。問題は日本国籍が(約一○○○隻から約二〇〇隻に)大幅に減少していることである。一〇年前の五分の一である。一方、九五年の日本人船員は五六一○人と一○年前の五分の一強である。円高の進展と供に低コストを追求する日本船社の方針の当然の帰結である。予想によると二〇〇〇年に向かって日本国籍船も日本人船員も減少し続けていく。
話を冒頭に戻したい。もしも地域紛争等一旦緩急あった場合、日本に物資は入ってくる保証はあるのだろうか。それに付いての白熱した議論があったということを私は聞いたことはない。日本人の生活は誰が守るのか。基本的なことが欠けたまま議論が空回りしている。

 

 

 

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